
野猪林で木に縛られ命あやうしの林冲、せっぱの水火棍が林冲の脳天めがけて振り下ろされる。そのとき、雷のような声とともにひとりの和尚が錫杖を振りまわして出て来て、薛覇の水火棍がはじき飛ばされた。
林冲の目の前は魯智深がいた、助けられた事を知った。流刑になったと聞き、命が狙われるのでは思い、ずっと後をつけていたのだ。
魯智深は董超と薛覇を殺そうとしたが、林冲が止めた。端公は命じられただけで、憎むべきは陸謙、そして高俅である。
魯智深は林冲の縄は解き、今後はどうするかたずねた。一つはこの端公達を殺して逃亡するか、このまま滄州の流刑地へ向かうか。
林冲は、再三魯智深の忠告を断わり、このまま刑に従い滄州へ行く事にした。開封に残している家族や、出発の時に見送ってくれた人達の温情に報いると誓った。魯智深も納得し、滄州までの道のりを共にする事となった。
林冲の一声によって命は救われた端公だが、いつも魯智深の目は光っている。端公らは荷物を抱え、林冲と魯智深の世話役となった。
林冲の喉が乾けば端公が水を水汲みし、林冲が疲れれば休む。すべては魯智深の一声でった。林冲は長い旅を友と一緒で今までの苦心も少しは薄らぎ、話しも弾んでいた。
そして幾日がすぎ、ぶじ四人は滄州に入った。魯智深は牢城までは人家が続き、人通りも多いのを確認し、林冲に別れを言い開封の大相国寺に戻った。
滄州に入ると林冲と端公の三人は酒屋で休息をとった。だがいくらまっても主人は酒や食事を出してこない。怒った林冲が主人にどなると、ここ滄州に住む柴進は、流罪人を屋敷に招き入れ暖かくもてなす人物なので、ここで酒を飲まない方がいいと言う。林冲は開封でその名を聞いていたので、二人と相談して柴進の屋敷を訪れる事にした。
しばらく歩き、大きい屋敷についた。林冲が門番にたずねると、残念ながら柴進は狩に出ていた。聞いた林冲は残念な気持ちで去った。
屋敷を離れ、街道に戻った三人は、若い官人を取り囲む狩り帰りの一行とすれ違った。多くの下男を従え、気品あるその人こそ大周は柴世宗の子孫、小旋風の柴進であった。
林冲はこちらから声をかける訳にもいかず、人込みの中から眺めているだけだった。柴進はふと道端にいる囚人に目を止めると、馬を駆け寄らせ名前を訪ねさせた。林冲が名前を名乗ると、開封の八十万教頭と知った柴進は馬から下り、挨拶をすると急いで屋敷に招きいれた。
柴進は慈悲深く好漢との交わりを好む為に、罪人であろうと逃亡の身であろうと屋敷に客として入れもてなし、でていく時には金を渡す。柴家は太祖皇帝から受けたお墨付を代々引きついでいるため、役人も入りこめない治外法権である。屋敷内にはいつも数人の居候客を抱えていた。
林冲は遠くの滄州への辛い旅だったが、柴進と出会い温かいもてなしをうけ、大いに喜んだ。酒宴の席に、洪教頭とよばれるひとりの居候がやってきて、林冲の挨拶も無視して上座の席にすわり、不満気に林冲を睨んでいた。洪教頭は棒槍には自信があったので、柴進が林冲の棒術や人柄をはやしたてるので、とても苛立っていた。
酒宴の中、洪教頭は柴進に進みでて林冲と一試合を願った。柴進の武芸の師匠を討ち負かしてはと試合を断ったが、態度の大きい洪教頭を柴進は良く思わず、ぜひとも林冲の腕を見たかった。柴進は林冲が気を使っているのではと思い、洪教頭は最近ここに来た事を言い、勝利者には褒美を出すと言った。
ちょうど月が出るのを合図に、庭に下りた洪教頭も闘志をみなぎらせ棒を構える。林冲は枷を外され、気を使う事もなく、棒を構えた。
しょせん洪教頭の棒術は林冲の前では通用せず、軽くあしらわれ、足を強く打たれひっくり返った。洪は見物人に助け起こされると、さっさと屋敷を出て行った。
翌朝、林冲と端公ら三人は柴進の屋敷出て、滄州の流刑場へ向かった。柴進は林冲の身を案じて流刑地の管営と差撥宛に手紙を書き大金を添え手渡した。林冲はありがたく柴進の恩を受けた。
苦役場に着くと、董超と薛覇は引き渡しの手続きを終え、開封へ戻った。開封に戻った董超と薛覇は陸けんには途中物凄い和尚に襲われ、ずっと滄州まで見張られ暗殺する事ができなかったと報告し、金を返した。
襲った和尚とは大相国寺の菜園を管理している和尚だろうと、捕り手たちを寺の菜園へと向かわせ菜園をとり囲んだ。
魯智深はいち早くごろつき達から報告を受け、菜園に火をかけ、錫杖を振り回しに捕り手達を打ち倒し道を切り開き逃げ去った。この夜、開封の街は大変な騒動となった
さて、管営の前に呼び出された林冲。柴進からの手紙と金のおかけで殺意棒をまぬがれ、枷を外され牢城の出入りも自由、苦役の中でも一番楽な仕事の天王堂の管理を任される事となった。
はや冬を向かえて北の地はますます寒くなる。柴進から差し入れや冬着を送られ不自由のない生活を送っていった林冲だが、心配なのは開封に残してきた家族の事だった。
ある日の事、林冲が街を歩いていると、後ろから一人の男が声をかけてきた。
