物語 第四十三回

沂州の虎達


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 禁酒すること・ひとりでこっそり行くこと・斧を置いていくこと、3つの宋江の言いつけを守り、李逵は酒を断ち生まれ故郷の沂州へと向かった。宋江は李逵の事が心配で、見張り役として一人つける事にし、同郷である朱貴が選ばれた。朱貴は酒屋を侯健と石勇にあずけ、李逵の後を追った。
 沂州についた李逵だが、人ごみの中、自分の似顔絵入りの手配書をどうどうと眺めている。朱貴は慌てて李逵を人ごみから連れ出し、弟が経営する酒屋へと連れていった。
 ここまで宋江の言いつけを守り酒を断っていた李逵であったが、酒屋にはいったとたん我慢できなくなり、ついつい酒を飲んでしまった。

 陽が暮れてから、一人李逵は母親を連れ出す為に実家へと裏道を通っていった。途中、李逵の前に立ちはだかる男が現われた、その男は顔には真っ黒の炭を塗り、二梃の斧をもって追い剥ぎをしている。それもなんと黒旋風李逵の名前をかたってのこと。
 怒った李逵は、持っていた朴刀で男の足を斬りつけた。偽者の名前は李鬼といい、相手が本物の李逵だと知って必死で命ごいをした。さすがに瞬きもぜず人を殺す李逵も、母親を養わせていく為に仕方なく追い剥ぎをしている、と聞くと殺す事もできず、真っ当な暮らしをしろと金をやって逃がしてやった。

 李逵はしばらく歩いたが空腹の為、飯を食わせてくれと一軒の民家を訪れた。出てきた女は言われるままに飯を準備し始めたが、なんとその女は偽者の李鬼の妻であった。
 しばらくして足をひきづりながら帰ってきた李鬼、妻に本物の李逵に出合い足を斬られたが、老母を養っていると嘘を言うと、金までくれて逃がしてくれたと言った。李鬼の妻は飯を食べさせろと言って今横になって休んでいる男がおたずね者の李逵だとわかると、痺れ薬を使って捕えて賞金をいただこうと李鬼にもちかけた。

 ちょうど起き上がり、二人の話しを聞いた李逵、だまされたと知ると怒って飛びだし、朴刀を振りかざし李鬼を斬り殺した。李鬼の妻はというと、慌てて森へと逃げ出し姿が見えないので、李逵は追うのをあきらめ炊きあがった飯をたいらげ、母のいる実家へと向かった。
 実家を訪れると一人母親が寝台で念仏を唱えていた。母親は李逵が家を飛び出してからというもの泣きつ続けて、ついには涙が枯れ目が見えなくなった。李逵は役人になったので迎えに来たと嘘をいい、連れ出そうとしたとき、李逵の実の兄である李達が母親の飯をもって帰ってきた。李達は年期奉公をしてわずかな収入で暮らしをたてていた。

 江州での事件で李達にも火の粉がかかったが、奉公先の主人の口添えがあり、なんとか捕えられずすんだものの、手ひどく痛めつけられた。李逵は母親を連れて行くのだと説明したが、梁山泊の一味となっている事を知っている李達は、李逵がまた何か悪い事をするのではないかと思い止めようとするも、力では負ける為に応援を呼びにいった。
 面倒が起きる前にと、李逵は兄が戻ってこないうちに母親を背負い五十両の大金を残して飛び出した。応援を引き連れてきた李達だが、すでに母と李逵の姿はなく、金が置いてあったのを見て、李逵を信じて追う事をやめた。母親にとって、ここで貧しい暮らしをするよりも李逵と一緒の方が楽であろうと思う李達であった。

 一方李逵は、追手が来るのを恐れて道を急いでいた。沂嶺とよばれる山道にさしかかったところで母親が喉の乾きを訴えた。李逵は母親を背から降ろし、谷川の水を汲みに行き、しばらくして水を持ち帰ったが、今までいたはずの母親の姿はなく、周りには血の後があった。李逵はおそるおそる血の後をたどっていくと、そこは虎の住処、二匹の子虎が李逵の母親を食っていたのだった。
 怒った李逵は全身の毛を逆立てて巣に飛び込み、朴刀で二匹の子虎を殺し、巣に戻ってくる母虎も一突きで息の根を止め、父虎も格闘の末に朴刀でとどめをさした。四匹の虎を殺した李逵、泣きながら母親の死骸を拾い穴を掘って埋めると、しばらく泣き続けて、とぼとぼ山を下った。

 下山した李逵を迎えたのは地元の猟師たち、山から一人でやってくる李逵の服に血が付いているのを見て驚き訪ねると、李逵は四匹の虎を殺したといい、麓の街は李逵を英雄扱いした。麓の人々はずいぶん虎に悩まされていたらしく、李逵は地元の金持ちである曹家に招かれ、盛大なもてなしをうけた。
 だが虎退治の英雄をひと目見ようと集まった野次馬の中に李鬼の妻の姿があった。李逵の姿を見て慌てて知らせに走った。
 虎を退治した豪傑がおたずね者の李逵と知ると、役人に知らせるとともに、李逵を捕える計略を練った。その場で捕えようとすると何人死者がでるかわからない。

 曹家の屋敷では役人が部屋の奥に隠れて捕える準備をする。曹家の主人は言葉巧みに李逵を酒責めにし、たらふく飲ませて酔いつぶしたところで、役人が隠れている部屋に案内し、腰を降ろした所を狙って一斉に役人達が飛びだし、李逵を縛りあげた。翌日、県からは一人の都頭が派遣された。名を李雲といい、西蕃の血が流れ眼は青く青眼虎と呼ばれる。
 命令を受けた李雲は李逵を囚人車に入れ、役所へと護送する。李逵が捕えられた噂を聞きつけた朱貴は見守り役を言いつかったからには何としても李逵を助け出さねばならない。弟の知恵を借り、李逵の救出計画を練った。

 武術の師匠でもあり、尊敬する李雲相手に武術ではとうてい歯がたたない朱富は、護送中の所を、お役目ごくろうさま、と痺れ薬を入れた酒と肉を出して出迎えて役人達を痺れさせ、その隙に李逵を助けだすという知略を使い、見事成功させた。
 縄から逃れ、自由の身となった李逵は朴刀を手にすると、役人だけではなく曹家の主人や李鬼の妻、ついてきた野次馬達をあっと言う間に殺してしまった。
 李雲も殺そうとする李逵を朱富は制止し、その場を去った。李雲は酒が苦手であった為、少量の酒と肉を口にしただけだったので、すぐに回復し李逵達を追いかけた。

 無事に李逵を助け出したが、こうなっては朱富も、この地にはいられず兄について梁山泊へ仲間入りするしかなかった。店をたたみ、すでに荷物をまとめ家族達は先に出発させている。
 朱富は李雲が必ず後を追って来るだろうと、家族達と荷物は朱貴にまかせて、李逵とともに李雲が追い付くのを待ち構えていた。
 しばらくして追い付いき、二人の姿を見つけた李雲は李逵に向かって朴刀をふりかざし飛びかかる。李雲と李逵の二人、いざ朴刀での斬り合いとなった。


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