物語 第四十一回

無為軍強襲


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 ざっと六・七千もの江州軍勢がやってきたと聞き、まっさきに飛び出したのは李逵。二梃斧を振り回しながら敵軍目指して走って行く。
 晁蓋の指示で、まず宋江と戴宗は劉唐と朱貴に守られながら船に乗り、李俊達と阮兄弟が岸辺で待機。花栄・黄信・呂方・郭盛が李逵の後ろに続く。花栄は弓を構え、後ろから李逵を援護する。百人ほどの手下数では圧倒的不利の梁山泊軍だが、寄せ集めの江州兵とは威勢が違う。
 花栄の放った一矢が江州軍の指揮者らしい将を射殺すと、その弓の腕に驚いたのか、半数は逃げ腰状態。我先に逃げようとする人馬の犠牲になる者も少なくなかった。そこへ斬り込んできた李逵を誰が防げようか。鬼神のごとく次々と二梃斧で江州兵を斬り倒していく。

 さんざん追いかけられ城に逃げ戻った江州の軍勢は城門を堅く閉ざしてしまい、出てくる様子はない。なおも殺戮を行おうとする李逵を制止し、一同は李俊達の待つ岸辺へと戻った。
 船に乗り込み、江を渡る。無事に脱出し、ひとまず穆家にたち寄り身体を休め、好漢達は暖かいもてなしをうける。九死に一生を得た宋江だが、追手から逃れたものの気がかりな事があった。宋江と戴宗を無実の罪に陥れた憎き相手黄文炳、奴を捕えて恨みを晴らしたい思いで一杯だった。このまま放置するとこの先も何をしでかすか知れず、生かしておいては人々の為にならないと、晁蓋達に無理を言って無為軍を攻める様に頼んだ。

 世間を渡り歩き、無為軍にも詳しい薛永が偵察をかってでて数日すぎた日、一人の知り合いの漢を連れて帰ってきた。名を侯健といい、裁縫の腕を買われて黄文炳の屋敷で雇われていた職人である。
 侯健から詳しい話しを聞くと、ますます黄文炳の悪行が暴露される。無為軍の人々から、実の兄は仏の様に敬われる存在であるのに対し、弟の方は日頃の行いを見て黄蜂刺と呼び嫌っている。
 侯健の情報を元に宋江が作戦の指示を出し、その夜のうちに黄文炳の屋敷を襲う手はずが整った。侯健は元通り黄文炳の屋敷にもどり、数人が無為軍に潜入した。そして宋江達は夜を待ち、船で無為軍へと向かった。
 先に潜入していた薛永と白勝が内応し、城壁に砂袋を積み上げ忍び込む。李俊と張順は江州城内の動きを見張り、張横・阮兄弟・童兄弟はそのまま船で待機する。
 屋敷内にはすでに侯健と薛永が潜入していて、合図を待っていた。隣の家が火事だと屋敷の者をだまし、門を開けた隙を見て一斉になだれ込み、屋敷内の出会った者すべてを殺した。だが肝心の黄文炳は悪運強く難を逃れていた。
 隣の兄の屋敷には火が飛び移るどころか、好漢達は消火を手伝う。目的は黄文炳への復讐、罪も無い者は傷つけるなとの命令が出ていた。

 黄文炳の屋敷には驚くほどの金品があった。これすべて良民から搾り取ったものである。好漢達はすべて奪い取り、屋敷に火を放った。
 火の手が上がったのを合図に、城門付近で待機していた杜遷と石勇は、警備兵を殺し城門を奪い取り、無事無為軍を脱出。それぞれ張横・阮兄弟・童兄弟の船に乗り込んだ。
 ちょうどこの夜は蔡得章の元を訪れていた黄文炳、無為軍が火事だと聞かされ、大慌てで船に乗り込み無為軍へと向かった。街に近づいていくと自分の屋敷の方角から火の手が上がっている様に見えた。勘のするどい黄文炳は梁山泊の仕業ではないかと察して、船を引き返そうとしたとたん、前から二艘の早船が近寄ってきた。

 二艘の船には李俊と張順がそれぞれ乗っており、江州へ火事を知らせに行くふりをしていた。驚いた黄文炳は早くも水の中に飛び込み身を隠そうとしたが、張順に捕まり生け捕りにされた。黄文炳を捕えたので、船に乗っていた者は帰してやり、李俊と張順は穆家へと向かった。
 同じころ穆家に到着した宋江達。黄文炳を捕えたと聞き、皆喜んだ。黄文炳は宋江達の前に連れてこられ、李逵が処刑した。これで思い残す事はない、ぜひ梁山泊の仲間にしてほしいと宋江は晁蓋以下梁山泊の好漢一同に頼んだ。戴宗と李逵、それに加勢にきた江州の面々も皆おなじ意見である。

 かくして三十人の好漢が集う事となった穆家では、好漢達の為に盛大な宴が用意され、一同大いに呑み歌い盛り上がった。
 翌朝から梁山泊への凱旋が始まった。先山寨で留守をあずかる呉用達の元に知らせに行く為、宋万と朱貴が先に出発し、あとは五隊にわかれての大移動となった。それぞれの手下や使用人達には、ついて来る者を従え、望まぬ者には金を出して去らせた。
 第一隊は晁蓋・宋江・花栄・戴宗・李逵。第二隊は劉唐・杜遷・石勇・侯健・薛永。第三隊は李俊・李立・呂方・郭盛・童兄弟。第四隊は張兄弟・阮兄弟・黄信。第五隊は穆兄弟・燕順・王英・鄭天寿・白勝である。
 掲陽鎮を出発し三日がたち、第一隊が黄門山に通りかかった。見るからに山賊の出没しそうな雰囲気、後続を待って全軍で通過しよう思案したとたん、激しい銅鑼の音が響きわたり、五百ほどの山賊が現われた。率いるのは四人の頭目である。
 晁蓋と戴宗は朴刀をかまえ、花栄は弓を手にとり、李逵は宋江をまもる。黄門山の四人の好漢たちはぞれぞれに獲物をもち、宋江を出せと言う。宋江は見に覚えの無い事、前へ進み出て挨拶すると、四人の好漢は慌てて馬を降りて平伏した。
 宋江は四人を助け起こし名を訪ねると、それぞれ摩雲金翅の欧鵬、神算子の蒋敬、鉄笛仙の馬麟、鉄鍬を得意とする九尾亀の陶宗旺と名乗り、いずれも緑林に身を落し、黄門山に根城をかまえている好漢であった。

 欧鵬達は江州で宋江が捕えられ処刑となった噂を聞き、助けに行こうとしたが、すでに梁山泊の好漢らしき人々によって助けられたと知り、街道で待ち構えていたのだった。四人の好漢、いずれも宋江の名を慕い、会う事を夢見ていた。
 宋江達は山寨に招かれ、次々と到着する後続の一同も、みな山寨に招かれ酒宴に招待される。宋江の進めで、欧鵬達四人も梁山泊へと誘うと、喜んで仲間いりを承諾した。部下のうちついてくる者だけ連れ、去りたい者には金を与え去らせた。
 欧鵬達は第六隊となり、山寨を焼きはらい、荷物をまとめて隊列に加わった。

 それから数日、一行は無事梁山泊に生還をはたした。前もって宋万と朱貴から知らせを受けていたので、山寨の守りについていた呉用・公孫勝・林冲・秦明・蕭譲・金大堅が今や遅しと出迎え、宴の準備を整えていた。
 梁山泊では新たに仲間入りした多くの好漢を迎え入れ、数日間の大歓迎会が開かれた。多くの仲間入りのため、好漢の家族には新しく家屋が築かれそれぞれ住まいが割り当てられ、新しい職があたえられた。晁蓋は首領の座を宋江に譲ろうとしたが、宋江は歳も下であり、新参者であると断固断わり、第二の席につくこととなった。

 危ういところを助け出され、無事仲間入りをはたした宋江だが、ひとつ気掛かりなのは家に残っている老父の事である。江州での事件で老父の身に被害が及ぶ前に助け出したいと宋江は言う。晁蓋達はみな危険すぎると止めたが宋江は聞かず、一人で老父を迎える為に出発した。
 梁山泊では多くの兵馬が加わり、李俊・張兄弟・童兄弟の加入で水軍がさらに強化された。好漢達はそれぞれの持ち場を受け持ち、いつか対戦する事になろう官軍との戦闘に備え、防備の強化や船の整備、それぞれ訓練の日々が続いた。


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