物語 第四回

花和尚誕生


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 その時、魯達の袖を後ろから引っぱる者がいた。魯達が振りかえるとそれは渭州の歌唄い金睡蓮の父親だった。魯達を見つけるとあわてて、人の少ない所へ引っ張っていった。
 鄭の手から逃れる事ができたのも魯達のおかげだ、命の恩人としてあがめ、いつも身を案じていた。あの日金親子は、無事に渭州を出たが追手が来るのを恐れ、逆方向の代州に向かうと、親切な長者の趙員外にみそめられ、今は正妻として迎えられている。二人が幸せに暮している事を聞いた魯達は安心した。

 魯達は屋敷に招かれ、再開を喜んだ金睡蓮。帰宅した趙員外も睡蓮の恩人として話しは聞いていたので、酒をすすめ、武術の話しなどで大いに盛り上がった。
 数日の間、屋敷に匿われ魯達は酒には不自由のない日々を費やしたある日、魯達の人相書きに似た人物がいたとして、街でおたずね者魯達を厳しく捜索をしていると聞き、趙家に迷惑がかかる事を恐れた魯達は出ていこうとした。だが趙員外は今出て行かせては恩人を見殺しにする様なものだと、ひとつの提案を出した。

 五台山文殊院にある寺の代々施主をつとめていたため、智真長老とも親しい中であり、いつか身内から出家させたいと思っていた。すでに出家にあたっての準備は整えていた、魯達に僧になる気があるのなら、出家し名前を変え寺に身を隠すのはどうかとだずねると、行くあてもない魯達は承諾した。
 多くの贈り物とともに趙と魯達は五台山にのぼり、長老に魯達を紹介し出家させたいと願い出た。首座や僧侶達からは、凶悪な人相の魯達を出家させるのは反対との意見がでたが、趙からの願いとあってはことわれず、長老は魯達をいずれは悟りを開く人物とみて、出家を許可した。魯達は剃髪し身を清め僧侶となり、三帰五戒を授けられ智真長老から法名を授けられ魯智深と名を変えた。

 この日より魯智深は五台山で出家僧としてのひびを過ごす事となった。しかし魯智深に出家としての心はなく、何度言っても座禅や経などに見向きはしない。修行僧からは毎日の様に苦情が出るが長老は気にとめず、魯智深に好きなようにさせていた。
 魯智深はうるさく言われなくなったので、ただ気の向くままに寝て起きて食って、自由気ままな暮しをしていた。ただ禁酒の戒にしばられ、身体の鈍る魯智深であった。
 そんな日が幾日もすぎ、はや半年ほどがすぎた。魯智深は趙からの言いつけを守り、出家して以来おとなしくし酒は断っていたが、ある日山の中腹にある亭でぶらぶらしていると、酒の香りとともに酒売りがやってきた。

 魯智深はひと樽いくらか値段を聞くと酒を売ってくれと言ったが、酒売りは寺ので働いている職人や寺男達に売りに行く酒で、僧には売れないという。魯智深の表情を見て、いち早く危険を察知した酒売りは逃げ出そうとしたが、魯智深は酒を強引に奪いとり、ひと桶飲みほした。酒売りは長老に知れては商売ができなくなると、もうひと桶を持ち山を下りていった。
 もろ肌脱ぎとなって背中の刺青を丸出しにし、寺に帰ろうとした。門番は魯智深が酔って登ってくるのを見て止めたが、一人で魯智深を止める事ができるはずがなく、二三十人の寺男や職人がたばになって魯智深を捕りおさえようとしたが、ことごとく返り打ちにあい大勢の怪我人がでた。

 急いで智真長老が出て魯智深を呼び止めると、酔ってはいたが長老とわかると魯智深は暴れるのをやめ、ひとまず休ませた。
 翌朝、長老から説教を受け、魯智深は反省する。魯智深から怪我をおわされた僧や職人からは寺においておくと災いの元だと苦情がでているので首座から伝えたが、長老は趙員外の顔をたて、今回は大目に見ようと言うだけでだった。
 酒は飲まないと約束したものの、いつもの行動には変わり映えはない。この日も修行僧の座禅中に大いびきで昼寝する魯智深であった。

 それから二ヶ月ほどたったある日、ふと智深は退屈しのぎに麓へと下りた。麓の街は賑やかに活気あふれんばかりの人々、多くの酒屋が並んでいた。久しく下界と縁のなかった魯智深の興味をそそる物ばかりであった。
 うれしくなり街中を歩くと鍛冶屋から聞こえてくる鉄を打つ音に引き寄せられ、魯智深は特注水摩仕立て六十二斤の錫杖と戒刀を注文した。
 酒屋から酒の香りがただよってくると、禁酒の戒も忘れ店にはいる。だがどの酒屋も僧侶に酒を売ると商売ができなくなると断る

 どの店も無理だと知ると魯智深は街はずれの酒屋にはいり、旅の僧だと偽って酒を出させた。酒屋の主人も魯智深の風体見て五台山の僧ではないと信じ、酒と犬の肉をだした。
 思う存分酒を飲み肉を食べた魯智深は、残りの肉をふところにしまい寺に戻った。酔っぱらっている魯智深に気付いた門番はすぐ山門を閉じた。
 魯智深は酔った勢いで、山門を守護する仁王像とにらみ合い、怪力にまかせ引きずり降ろし、叩き壊したしまった。さらに門を開けないと火をつけるぞと叫んだ。

 それを聞いて驚いた長老は門を開けさせると、よろよろと魯智深が入ってきた。座禅中の僧侶達の中にはいり、ヘドを吐き肉を口に押し込もうとする。みかねた首座は職人衆、寺男、篭かきから内働きまで、大勢集めて魯智深を捕り押さえようとした。それを観た魯智深は卓の足をもぎ取り、寺内を大暴れした。
 魯智深の怪力の前に、二百人もの男がかかっても止める事ができず、さらに大暴れし多くの怪我人がでた。長老は一喝すると、すでに酔いは醒めかけていた魯智深は卓の足を捨て観念した。怪我人を休ませる様に告げると、ひとまず魯智深を休ませ、長老は相談のうえ、魯智深を他所へやる事にした。

 魯智深が壊した金剛像を弁償してもらう事、魯智深を他所へ行かせる事を趙員外に承諾してもらいうと、長老は魯智深に向かって二度の大暴れを起こしてはもうかばう事もできず、もここに置く事はできないと告げた。
 長老は新しい衣と路銀を手渡し、開封の大相国寺の智清禅師宛に紹介状を書き、四句の偈を与えた。魯智深は趙員外にあわす顔もなく、四句の偈を聞き、長老の心遣いに感謝した。
 そして魯智深は一人五台山をあとにした。


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