物語 第三十八回

李逵と張順


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 江州牢城の節級を勤める人物、名は戴宗といい、一日に八百里を走る神技を会得している事から神行太保と人は呼ぶ。宋江はわざと賄賂を渡さず、戴宗の方からやってくるのを待っていた。今は梁山泊の軍師となっている呉用からの手紙、事が漏れては戴宗に迷惑がかかると警戒したのだ。
 案の上、怒りの表情でやってきた戴宗、自分にだけおきまりの金を持ってこないでふんぞり返っていた宋江を見て、大いに怒った。だが、呉用からの手紙を渡され、相手が宋江だと知ると、慌てて無礼を詫び平伏した。戴宗も日頃から宋江の噂は聞いていたのだ。
 宋江はここに来たいきさつをすべて戴宗に話すと、宋江の苦労を知り人柄を知った。そしてしだいに仲を深めていく。

 早速戴宗は宋江を誘い街の酒屋に出向いた。しばらく飲んでいたが、店の主人が慌てて戴宗のところに駆けつけてきた。騒ぎを起こしているのは小役人の李逵という暴れ者で、今日も博打金を巡ってもめ事を引き起こしている。戴宗でなければ止める事ができないと主人が言うと、戴宗は席を立ち、李逵をなだめると宋江の前に連れてきた。
 戴宗は宋江と李逵を互いに紹介した。李逵は以前から宋江の名を慕い、一度会いたいと思っていた。偶然にもここで対面できた事をたいへん喜んだ。
 金がいるのなら、と宋江は十両の金を李逵に渡した。戴宗が止めようとしたが、すでに李逵は喜んで飛び出した。宋江の為に博打で金稼いでうまい物をご馳走しようと。
 争いを引き起こしそうな予感の中戴宗は、がさつ者ではあるが弱者を助け、真っ正直な李逵の気性を話した。

 李逵はというと、金を握って賭場へ向かったが、最初の意気込みとは裏腹に賭けは連続して負け、持ち金がなくなった。宋江からもらった金だったので、つい李逵は暴れてしまった。多くの人に怪我をさせて金をつかんで逃げ出すところ、戴宗が呼び止めて叱ったが、後ろに立っていた宋江が二人をなだめると、賭場で怪我した人に金を払ってその場を収めた。
 李逵は生まれ故郷の沂州を棄て江州で暮らし、性格は狂暴で争いを好む。人々は黒旋風と呼び恐れていた。だがそんな李逵も、戴宗の前では頭があがらず、また会って間もない宋江の寛大さに心打たれた。
 三人は琵琶亭で飲み直す事にした。がさつではあるが、李逵の一本気な正確は宋江をたのしませ酒宴も賑わいだ。

 宋江は魚が好きなので、ここ江州のうまい魚を注文したが、出されてきたのは捕れたての魚ではなく、塩づけされた魚で、宋江の口にはあわなかった。
 それを知った李逵は宋江の為に捕れたての魚を買い求めると行って飛び出す。戴宗はまた争い事が起きるのではないかと心配で様子を見にいった。
 案の定、戴宗の心配事は的中した。宋江と二人で駆けつけると、漁師達から力づくで魚を奪いとろうとし、喧嘩の真っ最中だった。大勢の漁師に囲まれた李逵だが、赤子をひねるかの様に次々と漁師を投げ飛ばしていた。そこへ、騒ぎを聞きつけ怒った魚問屋の親方がやってきて、李逵と戦った。最初陸上では李逵の圧倒的な力差の前に手も足もでなかったが、水の中に入れば恐い者なし。これぞ張横の実弟である浪裏白跳の張順であった。

 戴宗が李逵を戒めている間に、張順は船に乗りこみ李逵を誘き寄せた。李逵が飛び乗ると同時に竿をひと突きし岸から船を離すと足で揺らせて転覆させた。少しは泳ぎの出来る李逵だが、張順に水中へと引きづり込まれ、浮いてはまた沈む李逵。たっぷりと水を飲ませたのだ。岸で見守る漁師達は仇討ちだとばかりに大喝采。
 宋江は李逵の喧嘩相手が張順だと知ると、張横からの手紙がある事を思いだし、すぐに喧嘩を止める様頼んだ。戴宗は大声で張順を呼んだ。
 泳ぎが得意で白い体である事から、人々から浪裏白跳と呼ばれている張順。戴宗の顔は知っているので挨拶を交わす。見知らぬ戴宗の連れは誰かと聞くと、日頃から義の人として名高い及時雨の宋江と知り、慌てて挨拶した。

 戴宗は張順に李逵との喧嘩をやめて岸に助け上げてくれと頼む。この時、李逵はまだなお水面でバタバタしている。張順はあっという間に李逵の所まで泳ぎつくと、溺れかかった李逵を片腕でつかみ、地面を歩くかの様に泳ぎはじめた。張順は腰から上を水上に出し、巨漢もなんのその。軽々と李逵を岸へ助け上げた。
 陸では李逵に分があったが、水中では圧倒的な張順の勝利となった。たらふく水を飲まされた李逵は起き上がる気力もない。事の起こりは宋江に生きのいい魚を食べさせ様とした事からであった。宋江が仲裁すると張順は李逵を助け起こし上等な魚を取りに行った。李逵と張順、仲直りをした事から、ともに互いに兄弟と呼びあう仲となった。
 四人は改めて飲み直す事にし、琵琶亭に戻り大いに飲んだ。

 琵琶亭でも、また李逵がもめ事を起こす一幕があった。歌唄いの娘を怪我させてしまったのだ。幸い軽い怪我で済んだので、宋江はいくらかの治療費を渡した。


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