物語 第三十四回

清風山騒ぐ


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 宋江と花栄は二台の護送車に入れられ、青州府へと護送される事となった。護衛は黄信と劉高、それぞれの部下合わせて百五十人である。
 即座に青州府へ出発した。だが道中、何やら先頭の兵士達がざわついている。黄信は馬を走らせてみると、回りの草むらや木の影から多くの人の気配がする。そこへ突如三人の騎馬にまたがった男が飛びだし、通り賃をよこせ、と大声を張り上げる。これぞ清風山の三頭目、燕順・王英・鄭天寿その人である。宋江が捕えられたと知って救出に来たのである。
 黄信は喪門剣を抜刀し、燕順達と渡り合う。だが劉高は盗賊の出没に後方で震えている始末。さすがに黄信も一対三ではいかんせん分が悪い。ついには馬首を転じて逃げ出してたのである。それを見た兵士達は浮足だち、全員逃げだしてしまった。

 残ったのは護送車の宋江と花栄、そして逃げるところを捕りおさえた劉高。燕順らは護送車を叩き壊し、二人を救い出すと劉高を裸にして縛りあげ、剥ぎとった着物を宋江に着せた。そして一同は清風山の山寨へと意気揚々と引き上げた。
 宋江の傷の手当がすむと、その夜は山あげての大宴会となった。ほどよく酒がまわったころをみて花栄、劉高をひったて腹を割いて恨みをはらした。
 とりあえず山寨に身を落ち着ける事にした花栄だが、心配なのは清風寨に残している妻と妹である。このまま黄信も黙ってはいまいと、燕順は手下に調査を命じた。

 翌日、手下が持ち帰った情報によると、花栄の家族は清風寨に逃げ帰った黄信によって見張られてはいるものの、身の危険はない事がわかった。黄信も守備に重点を置き攻めてくる気配はない。だが、黄信からの上申によって事件の重大さを知った慕容は大いに怒り、青州指揮司の任につく秦明に五百人の兵士をつけて清風山へ迫わせたのである。
 秦明と言えば霹靂火と呼ばれ、雷鳴の様な声を発し短気で有名だが武芸の腕は超一流。宋江と花栄は秦明軍を迎え討つべく手筈を整える。かつてない強敵に対する清風山陣営だが、智と勇が加わったことにより士気があがり、討ち破る事が出来ると信じるのであった。

 清風山麓にやってきた秦明、迎え撃つのは花栄であった。相手が謀叛人の花栄と知ると、秦明は狼牙棒を振りまわし怒り声をあげながら向かってきた。
 花栄は槍を握り秦明を迎え撃った。互いの腕は互角とあって、五十合にも及んだが勝負はつかなかった。花栄は負けたふりをして馬を返し逃げ出した。馬を走らせながら槍と弓を持ちかえ、振り替えると同時に矢を放つと、秦明の兜の飾りを見事射落とした。
 秦明は花栄の弓を恐れてそれ以上追わず、盗賊達に襲いかかったが、みな山寨へと逃げ帰った。秦明はますます怒りをあらわし、兵士達に道を探して追いかけるよう命じた。

 小道を追い掛けて行く兵士達にはあらかじめ投げ丸太や石や目つぶしが用意され、つぎつぎ兵士達は命を落としていく。秦明は別の道を探して山に登らせた。
 しばらくして山の西側から大きな歓声が上がった。秦明が兵士をひきつれ駆けつけると歓声はばったりやみ、今度は東側から大きな歓声があがった。またも秦明は兵士をひきつれ駆け付けたが、歓声はやみ人影は見えなかった。
 西へ東へと数回往復したが盗賊の人影も見つけれないので、短気な秦明はかっとなって山に登る道を探させた。東南に広い道があると知ると、兵士を向かわせた。疲れた様子の兵士達は足取り重く、すでに陽が沈みかけていた。

 陣を布き食事の用意をしているとき、激しい銅鑼の音とともに盗賊が奇襲をかけてきた。盗賊達の行動はすばやく、武器を取り馬に乗って追い掛けたときにはすでに姿を消していた。また兵士を失った秦明は苛立ち、食事どころではない。兵士達に命じて山を焼きはらい道を作る様命じた。
 秦明は鼓笛の音を聞き、一騎で高台に登ってみると山頂では花栄がゆっくりすわって酒を飲んでいる姿が見えた。ますます苛立った秦明だが、すでに兵士達は低地に追いやられ、関止めていた谷川の水で流され溺れ死に、また捕虜となっていた。
 ただひとりとなった秦明は頂上への小道を見つけると単騎駆け登っていったが、途中にあった落とし穴に馬もろとも落ちてしまい、捕われの身となった。

 清風山軍は宋江の智恵と花栄の力で秦明を捕えた。山寨では、縄で縛られた秦明が宋江達の前に連れられた。すぐに宋江は自ら秦明の縄を解くと、花栄とともに無礼を詫び、酒宴の席へと招待した。なぜ殺さないで歓待するのかと、捕虜となり死を覚悟した秦明にとって大きな衝撃となった。
 宋江達は自分の意思ではなく、劉高の悪だくみにかかり、身の置どころがなくなり仕方なく山に籠っているのだと秦明に話した。
 以前から及時雨の名を慕っていた秦明、始めて劉高の悪たくみに騙され、宋江を盗賊として捕えようとしていた自分を恥じた。宋江の怪我を問いただし、劉高による拷問の痕だと聞くと、いてもたっても居られなくなり、知事に真実を解明するのだと、皆に鎧兜と武器に馬を返してくれと頼んだ。

 知事からの信頼も厚い秦明だが、兵士の大半を失い任務をしくじった者に何ができるものかと燕順達は笑って答えた。それよりもいっその事、山寨に身を落ち着け、宋を蝕む上役たちに媚びる事なく自由に生きてみないかと、仲間に誘う。だが秦明、生きては宋国の民、死して宋国の鬼となる覚悟、その信念は硬い。
 今すぐにでも山を降ろしてくれと頼むと、宋江と花栄は一晩だけ人馬に休息をとらせても遅くはないだろうと、なんとか引き留める事に成功した。
 一日中、山中を駆け回り、正直言って兵も馬も疲労の色を隠せない。落ち着きを取り戻した秦明は酒宴の席に着き、その夜は一人の男として宋江達と酒を酌み交わすのであった。

 疲労からかぐっすりと一晩休息をとった秦明、翌朝早く元通り狼牙棒を握り、鎧兜を着こんで青州府へ駆け戻った。
 だが、城門にたどりついたが何やら様子がおかしい。見渡す限りの家屋は焼け崩れ、いたる所に人の死がいが転がっている。まるで何者かの手によって街が襲われた様だった。
 秦明は急いで城門の下へ行き、開門と口にしたとたん、慕容が姿を現し、よくも昨晩は賊を引きつれて街を襲ったなと秦明を罵る。何の事はさっぱり判らず呆気にとられていた所に、哀れな姿となった妻の首が秦明の目に映った。秦明の謀反と知って真っ先に処刑されたのだった。嘆き悲しむ間もなく、秦明の頭上には矢の雨が降った。悪夢でも見たかの様に、無我夢中で馬首を転じて逃げた。

 どれくらい走ったであろう。突然秦明の前に宋江、花栄以下、清風山の三頭目が現われた。宋江達は秦明の前に土下座し、宋江より口を開き事情を説明した。
 昨晩、狼牙棒と鎧兜をこっそり持ち出し、秦明を装って街を襲撃したのは清風山の手下であり、秦明をどうしても仲間入させようとの我々の苦肉の策であった。だが、妻の身までは考えにいれていなかったのは手抜かれだったと詫びた。
 全てを聞き終えた秦明、しかし込み上げてくる怒りをぶつける場所もない。それほどまでに自分に惚れられたと知る秦明、次第に怒りも収まり仲間入することとなる。

 全員が清風山に引き上げると、花栄は清風寨の家族をどうやって救出すべきか思考していると、黄信は秦明の弟子であるため、清風寨に籠っている黄信を説得し仲間入りされようと計った。
 秦明は単騎、清風寨に出向き黄信と会い、これまでの一部始終を話した。すべて劉高の悪巧みと知った黄信は秦明に従い、快く仲間入りを承諾した。尊敬する師、秦明に従うのは当然の事であり、常日頃から宋江の名を尊敬していたからだ。
 だが、自分が囚人車に押し込み、護送していた盗賊の首魁こそが実は宋江だったと聞いて驚いた。


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