物語 第三十二回

青州の山々


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 孟州を無事脱出し、青州にはいった武松。途中、蜈蚣嶺というところで王道人と名乗る偽道人を退治し、すこぶる機嫌もよく、足取りも良かった。
 だが冬の寒さと疲労から、深酒はよせという張青の戒めを破ってしまい、酒屋で争いを起こしてしまう。
 酒店の主人は濁酒と野菜の煮物しかないと言いつつ、子分を連れ入ってきた若者の客には態度をころっと変え、立派な酒樽と良く煮た肉を出してもてなした。

 苛立つ武松は主人に向かって、同じ酒と肉を注文したが、あれは若者が持ち込んでいる肉と酒で、場所だけ貸しているのだと言う。武松は聞き入れないばかりか、怒りをあらわにし主人ふっ飛ばしてしまった。
 それを見た若者は怒って武松を店の外へ連れ出し、身を低く構えてつかみかかったが、武松の怪力の前になす術もなく、なげ倒された。武松の方は酔い心地のちょっとした運動としか思ってはいない。若者は武松の鉢ほどの大きな拳で殴られた。

 回りの手下達は助けようにも手出しが出来ない。武松は若者を軽々と持ち上げ、冷たい谷川へ放り投げると、手下達は若者を助け起こして、みな散り散りに逃げ去った。
 武松は気分よく店の中へもどり、若者達の机に座り上酒を呑み肉を食べた。満足気分で歩いて行き、道ばたで吠える野良犬にむかって刀を振り下ろしたが、酔いのせいで足がもつれ、そのまま道沿いの谷川へと転げ落ちた。
 そこへ、さきの若者が応援を連れて、武松を捕えようとちょうど戻ってきた。谷川に転げ落ち、立ち上がろうにも起きれない武松を大勢で引き上げ縛ると、屋敷へと連れ帰った。

 屋敷内の大木に縛られた武松、さぁ、痛めつけてやろうと、さきほど武松に痛めつけられた若者と後から応援にきた来た兄風の若者、その手下たちが武松の回りを囲んだ。
 その時、奥から兄弟を呼び止める声がした。屋敷の客人らしい人物だが、武松の方へやってきて、顔を見るなりびっくり大声をあげた。二人の兄弟にとって想像も付かぬ言葉だった、これは私の弟だから助けてくれと言ったのだ。
 武松が見ると、客人は柴進の屋敷に身を寄せているはずの宋江であった。縄を解いて助け起こし、再会を喜んだ。

 二人はこれまでのいきさつを話した。宋江は父や事件の事が気掛かりになり、宋清を家へ帰らせると、この孔家を訪問して、棒術の師匠としてしばらく厄介になっている事を話した。若者二人、孔明と孔亮の兄弟を紹介した。
 孔兄弟は捕えた行者が宋江の弟分であり、素手で虎退治した豪傑と何度も聞かされた武松だと知ると、無礼を詫び、新しい着物を用意して屋敷へと案内した。武松も孔亮に無礼を詫びた。
 さて、幾日か孔家に手厚いもてなしをうけた宋江と武松だが、孔家に迷惑がかかる恐れもあり、そう長く厄介になってはいられない。
 宋江は青州は清風寨を守備する義弟花栄の元を尋ね、武松は魯智深・楊志が砦を構える二竜山を目指すことにして、翌朝早く宋江と武松は旅立った。二人は瑞竜鎮という街で涙を流し別れた。宋江は清風寨へ向かい、武松は二竜山へと向かった。
 武松は無事二竜山に到着し、魯智深と楊志に仲間入りし、三番目の頭領に落ち着いた。三人の豪傑の名を慕って小者が集まり、のちに施恩・曹正・張青・孫二娘を加え、勢力を大きくしていった。

 宋江は清風寨へ急ぐあまり、陽は暮れ宿場を通りすぎてしまった。険しい山道と寒さ厳しく、野宿どころではない。しかたなく先へ進む事にした宋江だが、暗闇を進み山腹にさしかかったところで、ふいに獲物を知らせる罠に足が絡まってしまった。
 合図を聞きつけた山賊達に縛られ担がれて寨らしき所に運び込まれ木に縛り付けられた。ここは山賊が住みつく清風山だった
 もう夜が明けようとする頃、頭領らしき三人が起きてきて、山寨の中央ある三つの椅子にそれぞれ座った。

 この時代、酔い覚ましに生き肝の吸い物が良いとされている。ひとつの大事もなしえないまま山賊の餌食となり落命する不運に、ついに宋江もここで命果てるのかとつぶやいた。
 中央に座る頭領、錦毛虎の燕順といい山東生まれの好漢。山賊となっても宋江の名は幾度となく耳にし、及時雨の名を尊敬をしていた。ふと、宋江とつぶやく言葉に疑問を持ち、何者かと尋ねた。宋江と知り合いか?、と尋ねられ、自分が宋江だと名乗った。
 驚いた燕順は自分の着物を宋江に着せ、中央に座らせ、無礼を詫びた。互いに礼を交わし名乗りあった。

 二の頭領は矮脚虎の王英、三の頭領は白面郎君の鄭天寿という。山寨でもてなしを受け、盛大な宴が続いたある日、見張り役から女連れの旅人と聞き、一番に出ていく王英、知る人ぞ知る色好みであった。
 しばらくして王英は一人の高貴な夫人を連れてきたが、青風寨の劉知寨夫人と聞き、花栄の元を尋ねた際、体裁が悪い。好漢らしからぬ態度を戒めるためにも、いづれ良い縁組みを約束し夫人を解放した。
 数日後、宋江は三人に見送られ下山し、花栄の屋敷の門を叩いた。


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