
ここ孟州に快活林という孟州きっての交易場があり、そこでは施恩が商才をいかし取り仕切っている。山東から河北からと、多くの人が集まり酒屋、宿、博打場など多くの商店が建ちならび、ひと月に二三百両の収入があった。
快活林には多くの実入りがあると知ると、顔役の座を狙って者がいた。最近孟州に赴任してきた張団練に付き添いついて来た男、背が高いので蒋門神の蒋忠とよばれる。この男、ある日施恩の元にやってきて店を力ずくで施恩の縄張りを奪いとった。抵抗した施恩だが、相撲を得意とする蒋忠に力では及ばず、大怪我をおい今もなお包帯が取れないという訳であった。
縄張りを奪って以来、蒋忠は我がもの顔で好き勝手に快活林に覇をとなえていた。怪我を療養し、いずれ縄張りを奪い返そうと考えるが、蒋忠には適わず、張団練という正規軍が後ろ楯にあるので、しばらく出方を見ていたところ、運良く虎退治で有名な武松が流れてきた。そこで、施恩は武松の力を借り、蒋忠に奪われた縄張りを奪い返えし、元の活気を取り戻したいと考えたのだ。
施恩は武松に相談事を打ち明けると、ちょうど施恩の父である牢城の管営がやってきて同席した。悪者を成敗する事こそが武松の信念。快く施恩の申しでを聞き、管営のすすめで武松と施恩は義兄弟の契りを交わした。
施恩はすぐにでも快活林に出て行こうとする武松を止め、二人は遅くまで酒を飲んだ。翌朝、施恩は武松が飲み過ぎて蒋忠に戦い挑む事はできないだろうと心配し、手下に調べさせたところ蒋忠は不在という事にした。
その夜は武松の酒の両はほどほどにされ、ゆっくりと休ませた。そして翌朝、武松は施恩と供を数人連れ、快活林へと向かう事となった。
武松は施恩に向かって、ひとつ約束事をした。武松曰く、三なくんば望を過ぎず、快活林にまでの道のりに酒屋があれば、そこで三盃の酒を飲まなければ通り過ぎないという意味であった。
これには施恩も返答を渋ったが、武松の力は飲めば飲むほど力が湧いてくると聞くと、武松を信用して酒を飲ませる事を承知した。
武松と施恩を先頭に快活林へ向かって歩く。ひとたび酒屋を目にすると武松はそこで三碗の酒を呑む。小さい酒屋から大きい酒屋まで、一軒につき三杯の酒を飲むと、そうするうちに五十盃近くも酒を飲んだ武松は、ほどよく酔い、みるみる身体には力がみなぎってきた。
そろそろ快活林だと聞くと、施恩には後からゆっくり来るように言い、武松は手下を数人だけ連れて進んでいく。しばらく行くと蒋忠のいる料理屋近くになると手下を下がらせると、派手に酔った演技を見せて涼んでいた蒋忠らしき大男の前を知らん顔して横切り、店に入った。
席に着き酒を注文すると、最初の酒は匂いを嗅いだだけでダメだと文句をいい、取り替えさせた酒もひと口つけてまた取り替えろと文句を言う。怒った女将が出ていこうとするが店の者になだめられ、仕方なく上等な酒を出させた。
三度目の酒には納得した武松は、飲みながら店の女将に酌をさせろと怒鳴ると、今度ばかりは怒ってとびだそうとした女将。それを見た武松は飛び出そうとした女将の身体をつかみ、大酒瓶へと逆さに投げ込んだ。
驚いた店の者は武松に打ちかかっていったが、大酒瓶の中へ投げ込まれ、拳で打たれてひっくり返るありさま、しょせん武松の敵ではない。
店から逃げ出したひとりが蒋忠に注進したらしく、騒ぎを聞きつけ慌てて蒋忠は店に戻って来た。早くも武松は店の前へでて対峙した。
武松は足元をふらつかせて酔ったふり。近ごろ身体のにぶっている蒋忠、酔っぱらいと知って甘く見ていた。武松は蒋忠の前で拳を空振りすると、身を翻して逃げ出した。かっとなった蒋忠が慌てて追い掛けたところを、武松は下腹を蹴り上げた。痛みに絶えきれず腹を抱え膝まづく蒋忠の顔面に向かって足をのばすと、まともに蹴りを受けた蒋忠は仰向けにひっくり返った。
武松は蒋忠の胸板を踏みつけ殴り掛かった。これぞ武松の得意とする玉環歩、鴛鴦脚と言う技であった。
