
街の人たちを引き連れ役所へ自首した武松。すでに陽穀県中その噂でもちきりだった。知県は登庁し、武松と王婆、それと証人達から事情聴取すると、事件はすべてはっきりしているので判決は早かった。
すでに西門慶は死亡し、後ろ楯する者もない。開封への任務を果たしてくれた武松のために、知県は軽い罪にするように供述を書き換え、正当防衛のうえであやまって殺人を犯したとの形で東平府へと上申し、武松と王婆の身柄は護送され、証拠の品々、証人達も同行した。
東平府でも武松の武勇は轟いていたので、知府は武松を苦しめる事はせず、陽穀県から出された供述書にしたがい、武松の判決は入れ墨させ孟州への流罪と軽い刑となり、王婆は死刑となった。
そして武松は街の人たちに見送られ、孟州へ出発した。護送する二人の端公も武松を好漢として慕っているので辛くあたる事はなく、何事もなく孟州への道を進んだ。
孟州へ入る頃、季節は暑い時期であった。三人の旅路は大木がそびえ立つ、その名も十字坡にさしかかったとき、ちょうど酒屋の旗印が見えたので、喉を潤すため三人は店へと入っていった。
店の前では厚化粧の女将が誘いかけていた。三人は飛び込むように酒屋にはいり、酒と肉饅頭を注文する。出された肉饅頭を端公の二人はうまそうに食べたが、武松は十字坡の肉饅頭の噂話しを聞いていたので、饅頭を割っておかみに、何の肉だと尋ねた。
笑ってごまかす態度が妙に怪しい。武松は何かあると感じ、わざとおかみにけしかける様な態度で熱燗を注文し、おかみの出方を待った。
武松はしっぽをつかんでやろうと、出された熱燗を飲んだふりをして床に棄てる。疑いもなく飲んだ端公二人は急にめまいがして床に倒れこんだ。武松も痺れたふりをして床に倒れると、奥からおかみが笑いなが出てきた。
女将はひさしぶりの獲物に喜びながら店の若者二人を呼び出し、荷物をあらためると端公の二人を奥の仕事場に運ばせた。そして武松を運ばせようとしたが、若者二人の力では武松の巨体はあがらない。苛立ったおかみは自ら袖をまくり、武松の身体に手をかけ担ぎ上げようとしたとたん武松の両腕両足がおかみの身体をつかんだ。
武松の腕を振りほどこうとした女将だが、その怪力からは逃げられようがない。武松は女将に馬乗りになると、絶え切れない女将は悲鳴をあげ叫んだ。二人の若者は武松の一喝に驚いて身動きがとれない。その時、悲鳴を聞きつけ、店の外から男が慌てて駆けつけてきた。
その男は女将の姿をみて、武松に無礼を詫びながらやって来て名を尋ねてきた。男の風体をみてただ者ではないと悟った武将は、女将を解き放ち名を名乗った。
ここにも虎退治の武勇は轟いていたので、その武松と聞いて驚き、二人は武松にあやまると自ら菜園子の張青と名乗り、店の女将は自分の女房で母夜叉の孫二娘と名乗り、孫二娘の父親と知り合い、ここで危ない商売し始めたことから、花和尚魯智深をあやうく痺れさせ命を奪うところだったこと、などを話した。
武松も殺人を犯し、孟州流罪となった訳を二人に話して聞かせた。
