物語 第十九回

梁山へ逃走


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 晁蓋逮捕にしくじった何涛は、晁蓋の行き場を探るため、晁蓋の屋敷に使える使用人を数人引き立て、阮三兄弟の名が出たので、白勝に居場所を白状させた。そして何濤は、腕の立つ捕盗巡検を一人引き連れ、翌朝五百ほどの兵士とともに石碣村へと向かった。
 そのころ晁蓋達は無事、呉用達と合流し阮小五の家に集っていた。地元の漁師達から新たに済州からの追ってがやってきている情報を聞きつけると、呉用の考えでは、今後の逃げのびる先として梁山泊以外に無いと覚悟を決めていた。

 しかし、その前に追手を迎かえ撃つ事が先決。すでに阮小二は家族と家財道具を船に移し、晁蓋以下使用人まで船に乗り込み、湖への中央へと漕ぎでた。
 はやくも何濤の率いる追手の兵士達が石碣村へと踏み込んできた。村の大部分が葦の群がる湖である為、辺りで船を調達し、兵士達を船へと配分し自らが戦闘に立って指揮をとる。
 晁蓋はひとまず家族達・財宝を呉用・劉唐とともに先に梁山泊の入り口、朱貴の守る李家の辻に急がせる事とし、自らは追手を迎かえ撃つ。公孫勝・阮小五ら血気盛んな漢は、すでに気迫をみなぎらせていた。

 すでに何濤達は船を進め湖へと漕ぎ出している。事は急がねばと手筈を決め、呉用達と晁蓋達は二手に別れ、それぞれの健闘を祈った。
 生まれ育った石碣村の湖は阮三兄弟にとっては、生まれ育った庭の様なものだから、土地の利をいかし追手を翻弄する手にでた。それぞれ三艘の小船に乗り込み漕ぎ出した。
 小五、小七は船から罵声を浴びせ、兵達が弓を射れば水に飛び込む。水に潜れば敵する者のない兄弟息のあった作戦に、何濤達は大いに翻弄され、なおかつ土地感もない為に狭い葦の州に誘いこまれた。先に手下を探りにださせたが、いっこうに戻ってこない。

 すでに日も暮れようとしている。罠だとは知らず、何濤は自らの船を奥へ奥へと複雑な水路を進ませて行った。
 すると岸に一人の鋤を持った農民がいた。何濤は気付くまいが、これなるは立地太歳の阮小二。何濤がやってくるのを待ち受けていたのだった。
 水路の先は行き止まり、何濤の手下達が岸に上がったのを見るや、阮小二は鋤をふりあげ次々と兵士をなぎ倒した。身の危険をさっした何濤であったが、引き返す間もなく水中から不意に現われた阮小七に足をつまかれ、水中へと引きづりこまれ捕えられた。

 何濤が捕えられ、のこるは捕手頭以下五百の兵士達の乗った大小あわせて五十艘ほどの船。日も沈み薄暗くなったとき、後方より吹く怪しい風。その風にのり、炎燃え盛る蘆を積んだ小船が数艘、兵士の船へと近づいてくる。
 兵士達の船は狭い水路にかたまっており、身動きが取りにくくなっていた。そこへ勢いよく燃え盛る船に体当りされ、まんまと火計にかかった。
 強風のあおられ、つぎつぎと船体は燃え崩れ、兵士達は焼け死ぬ者、溺れ死ぬ者、それ以外といえば、岸辺にはい上がったものの、晁蓋・阮三兄弟に次々と斬られた。そもそもこの怪しい風こそが、入雲竜と異名をとる公孫勝の雨風を呼ぶ妖術であった。

 宝剣を天にかざし、風を祈る公孫勝、陸上・水中で大活躍の阮三兄弟によって五百の追手は全滅した。まだ炎の燃え広がる蘆の州に生き残る者などなく、岸にも数百の兵士の死体が転がった。生きのこったのは阮小七に捕えられた何濤のみ。
 ひごろからあくどい行いをしていた報いがきたのだろう。晁蓋、阮小七に向かって、何濤を逃がしてやれと命令した。このまま息の根をとめれば我らの武勇が済州府の元に轟く事がない。
 親切に村はずれまで船で送りととげた阮小七だが、そこは抜かりなく、匕首で何濤の両耳をそぎ落とし岸へ付き落とした。

 追手を見事に退ぞけた晁蓋達は呉用・劉唐らに合流し、梁山泊の玄関口、李家道へとだどりついた。そこには見張り役の朱貴が居酒屋を構え、仲間入りにきた人々を見定めている。
 晁蓋達のただならぬ威風に、報告を受けた朱貴は急いで対応に現われた。朱貴に向かい、呉用の口から全員の姓名を名乗り、これまでのいきさつを告げた。大物の仲間入りに朱貴は大喜びで出迎えるのだった。
 朱貴は子分に命じて晁蓋達に酒と食事をもてなし、鏑矢で向かい側の入り江に合図を送った。晁蓋達の氏名を知るし、仲間入りの意を手紙にしたため首領の元に届けさせた。

 朱貴の居酒屋で晁蓋ら七人は、一夜のもてなしをうけると翌朝、朱貴に先導されつつ小船に乗り込み、金沙灘へと上陸した。
 出迎えた王倫以下宋万・杜遷・林冲らの頭目とともに、梁山泊の本丸である聚義庁まで招かれた。それぞれ右側の客席には晁蓋から阮小七まで七人がすわり、左側には王倫以下頭目達がずらりと並んだ。
 それぞれが名乗り合い挨拶を交すと、酒・肴が次々と運びこまれての大宴会となった。王倫は晁蓋達に向かい感謝の意を表わしてはいたが、それは表向きだけであって、王倫の心の内はすでに晁蓋の大物たる人格に怯えを感じていた。晁蓋といえば棒術の腕もさながら、人格も優れ義に厚いと聞いている、こんな人物が塞の仲間入りに来たとあっては、首領としての王倫の立場があやうくなるからだ

 生辰綱の金品を手土産に仲間入りを願う晁蓋だが、仲間入りの話しとなると、つい話題をそらす王倫。しかも晁蓋は、屋敷にて捕手から逃れ、石喝村での追手を次々と追い払った武勇談を話し、公孫勝や阮三兄弟の活躍を熱く語ったため、仲間入りにとって逆効果となってしまった。
 王倫のそんな内面をしらない晁蓋は大いに盛り上がり、遅くまで飲み、宴会が終った後も呉用に向かって王倫の寛大さを誉めたたえた。
 たが、うれかた晁蓋に対し、呉用は目は冷静であった。宴会のさなか、仲間入りの話しはうまくそらし、武勇の話題になれば知らんぷり、そんな王倫の心を呉用は読んでいた。

 呉用の目は王倫はもともと落第書生、小心者であり、宋万・杜遷も凡人。ひとり林冲だけが英俊であり、心底から王倫に服従している訳ではない事を察知した。
 晁蓋は裏でそのような訳があったとはしらず、ついぞ奮い称える我らの武勇を語った事を悔やんだ。仲間入りを断わられてはどうしたものかと、呉用と相談した。
 晁蓋の高名さ圧され、王倫はかならず仲間入りを断わるだろうと呉用はふんでいた。今宵の宴会で林冲の表情を伺っていた呉用は、おのずと仲間入りの機会がやってくるだろうと、すでに策をめぐらせていた。
 宴会後、あてがわれた客室で晁蓋と呉用の密談の最中、林冲が一人で尋ねてきた。

 林冲の訪問を聞いて、呉用の脳裏には十中八九、策が成功すると確信した。晁蓋達を前に林冲は礼を交すと、夕べの宴の失礼を詫び、王倫の頭領としての腑甲斐なさをなげいた。
 林冲の本音は呉用の察したとおり、不満ながらも王倫の配下についていて、心服してはいない。尊敬される禁軍教頭でありながら高俅の謀略にて滄州に流され柴進の世話になり、殺人を起こしやむなく梁山泊に身を寄せている。王倫をたよるしかない状況である。
 呉用は王倫について軽く触れてみると、小心者で晁蓋達の様な賢や能をねたむ性格である為、きっと次の宴会で王倫の本音がわかるでしょうと、林冲は言うと帰った。

 翌朝、酒宴が用意され晁蓋達は招かれた。呉用は皆を集め、この宴会でそろそろ王倫が本性を表わすだろうと指示を促す。おのおのが懐に匕首を偲ばせ、呉用が髭をなでるのが合図となった。
 水寨の前で王倫達が出迎え、晁蓋達は席へと招かれた。すでに宴の用意がなされ、それぞれが席についたが、林冲の表情を見るに、かなり険しく凄みがあった。
 皆が杯をかさね、山菜の珍味を食らいつつ、自然と話題は仲間入りについてと語られる。王倫は仲間入りの話しになると声を篭らせ、ふいに話題をそらしてしまう。林冲は王倫の煮えきらぬ態度に腹を立て、睨みつけている。

 ほどほどに酒が回ると、王倫は手下に盆にのせた大粒の金銀を持ってこさせた。立ち上がり王倫は晁蓋達にむかって、言葉では感謝の意を込めて礼を述べるも、豪傑方には合わぬだの、山寨は狭いどのと、あれこれ理由をつけて、銀子を路用として別の寨を訪れるようにと、追い出しにかかった。やはり、自分の地位が脅かされる事に怯えての事。
 その言葉終らぬうちに林冲は椅子を蹴り倒し立ち上がり、王倫に一喝し不満をぶつけた。両眼を見開いて大声をあげた林冲の表情に、王倫をはじめ手下達はたじろいだ。すかさず呉用は、仲間割れは止しなさいと口を挟み、王倫の出方を待った。

 王倫、すべてを見透かされている事に苛立ち、林冲をしかりつけて激しく対向してきた。皆が固唾を飲んでみまもる中、林冲はさらに王倫に向かって罵声をあびせ続けた。
 以前、林冲が仲間入りの願いにきた時にも、似た様な言い訳で山寨を追い出されそうになった。そして今回も知勇粒ぞろいの好漢達の仲間入りを、軽くあしらう王倫やり方に、今まで抑圧して思いが、ここにきて一度に張り裂けた。
 林冲は短刀を抜く。と同時、呉用は仲間割れは止しなさいと言い、撫で下ろす。これが呉用の合図で、晁・公孫・劉・阮三兄弟は立ち上がった。
 晁蓋と劉唐は王倫をなだめる形をとつりり退路をたち、阮三兄弟は杜遷・宋万・朱貴を抑えた。公孫勝と呉用は形は仲裁のふりをする。

 王倫、形勢悪しと読んで、宋万・杜遷らに助けを求めたが、すでに阮三兄弟によって身動きがとれない。林冲と王倫の間を割って入ってはいる形の呉用ではあるが、林冲の鋭い眼光で王倫を捕えさせ、今にも事を起こしそうな雰囲気であった。
 我々が来たからこんな事が起こったのだ、そうそうに立ち去りましょう…と、呉用はさらに林冲を王倫にけしかける様に話しを進めた。その言葉を聞くと同時、怒りに充ちた林冲の刃は王倫の鳩尾に深く突き刺さった。
 あわれ半生を盗賊にし、天然の寨と多くの手下達を手中に収め、梁山泊の主をつとめていた王倫であったが、一同が見守る中、ここに生涯を終えた。

 王倫の体から短刀を抜きさり、首をかき落とし高く掲げた林冲は一同に向かって、これは義の為に王倫を成敗したのだ、文句のある者は出てこい、そう大声で叫んだ。
 呉用の指図で、晁蓋たちもおのおのが短刀を懐から取り出し身構える。だが、梁山泊一同の者は林冲の腕前をしり、尊敬される人柄であったため、文句を言い出す者などいなかった。
 宋万・杜遷・朱貴達もその場にひざまづき、命ごいをした。しょせん王倫には、ここまで多くなった手下達をまとめあげる事はできなかっただろう。呉用は、今後は我々の為に義を尽くした林冲を梁山泊の主に皆で立て直そうではないか、と一同に提案した。


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