物語 第十六回

生辰綱智取


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 晁蓋は皆に公孫勝を紹介し、生辰綱を強奪する計画を進めている事を語った。公孫勝は生辰綱が黄泥岡を通るとの情報を探り出していたので、晁蓋が一人の男を推薦した。以前に世話した事がある白勝というごろつきである。黄泥岡近くに住んでいるので、隠れ家に好都合だった。
 すでに計画は呉用の頭の中で出来上がった。白勝にも一役かってもらう事にし、晁蓋達に計略を話すと皆呉用の知略を誉めたたえた。
 酒宴を終えると、阮三兄弟はひとまず石碣村へと帰り、公孫勝と劉唐は旅客として晁家にとどまった。呉用は時々晁蓋を尋ねて公孫勝と緻密な策を練っていた。

 晁蓋の屋敷にて生辰綱強奪の計画が進められているとも知らず、北京の梁世傑はこのところ蔡夫人から何かとせかされる日々を送っていた。ここ数日、運搬の責任者を決めかねていたが、この人物以外に適任者は無いだろうと決意し、楊志を呼びよせた。
 楊志も今年は十万貫を超える贈り物だと言う事は既に耳にしていた。今年も賊が狙っているだろうと、武芸に自信があっても大金十万貫運搬の隊を率いる事は容易ではないと楊志は思った。
 だが、梁世傑には何かと世話になっている身、無事生辰綱を届けるには策を用いる必要があると楊志は一つの提案をだした。

 生辰綱は十荷に分け、旅姿に扮した屈強な兵士に担いで行かせる事とし、蔡夫人の執事、謝都管と二人の虞候も同行する。権限は楊志に一任された。十四人の一行は出発した頃はもう五月、真昼は絶えきれないほどの暑さ、楊志達は開封への道のりを歩きはじめた。
 この先開封までの道には多く危険が潜んでいる。楊志の考えでは旅商人の一行を装い、最初のうちは朝は早く立ち、涼しいうちに道を進み、夕方には宿をとり身体を休める。だが盗賊の出没する難所では朝はゆっくりと宿を出て、真昼の一番暑い時間帯に道を進むという辛い計画であった。

 幾日も辛い道のりが続くと、兵士達は規則に縛られ、厳しい態度をとる楊志に次第に非難の目を向ける様になってきた。
 一行は開封への道一番の難所、黄泥岡にさしかかった。兵士達だけでなく謝都管も一歩も先に進めない状況であった。楊志は休まず岡を下るよう強制したが、兵士達は我慢しきれず、荷物を投げ降ろし木陰に倒れ込む様に腰を落とした。  いくら鞭を振っても立ち上がりそうにない兵士達。そのとき、草むらから楊志達一行の方を覗き込んでいる怪しげな男が見えた。楊志は朴刀をにぎり、草むらの方へと駆けよると、その男は慌てて奥の山影へと走って行った。

 楊志は男を追って行くと、街道から少し奥へ入った木陰で涼んでいる別の旅商人の一行に遭遇した。男も旅商人のの仲間らしく、楊志を見て驚いた旅商人は何者だと尋ねてきた。楊志も怪しみながら旅商人に向かって何処の者だと尋ねかえした。
 旅商人達は濠州より開封へと棗を売りに行く途中で、聞けばこの付近は盗賊追い剥ぎの出没する場所、赤痣の男に辺りを伺わせていたところだと言う。
 七台の荷車には樽一杯の棗が詰め込まれていた。楊志はその言葉を信用し、我らも同じく開封に向かう途中の旅商人の一行だと言い元の隊へと戻った。

 盗賊を追った事が空振りに終わった為、楊志に対して嫌味を言う謝都管。楊志がしばらく休憩をとる事にした直後、岡の麓からの声が聞こえてきた。
 陽気な歌声とともに近づいて来たのは二つの酒瓶を担っている酒売りの若者。酒と聞いて、いてもたってもいられない兵士達は酒の値段を聞くと金を集めはじめた。
 この様子を見ていた楊志はもちろん猛反対、酒に痺れ薬が入ってたらどうするんだ、と兵士を怒鳴りつける。むっときた酒売りは、毒入りなら買わなきゃいいさ、とまた歩いていった。

 すると先ほどの棗売り達が酒の匂いにつられて出て来た。棗売りたちは金を集めると、ひと瓶の酒を買って飲みはじめた。棗売りたちがうまそうに飲んでいるのを、ただ見ているだけの兵士達、謝都管の所に集まって楊志に酒を買う事を許してもらえないかと頼んでみた。
 棗をつまみにして、ひと瓶飲み干した棗売りたちだが、まだ飲み足らず酒売りにもうひと腕だけまけてくれと、せがんでいる。拒否する酒売りだが、一人がこっそりひと腕すくうと気付いた酒売りは慌てて追いかけて行く。またそのすきをついて一人がこっそりとひと腕の酒を盗み飲みした。ひと腕は取りかえし瓶に戻したが、ひと腕盗み飲みされ不機嫌な酒売りであった。

 楊志は棗売りが酒を飲むのをじっと見ていたが、どちらもの瓶も怪しい様子はない。謝都管に説得されると、兵士たちに酒を買う事を許した。
 兵士が酒を売ってくれと呼びかけが、酒売りの男は痺れ薬が入っているとケチをつけられた事に腹を立てて、売る気は見せない。兵士達は困った様子だが、そこへ木陰で休んでいた棗売り達が出て来て酒売りをなだめたので、不満ながらも酒を売り、代金を受け取ると岡を下って行った。

 兵士達は棗売りから碗を借り、ひと盛りの棗をもらった。まず、楊志と謝都管にひと腕づつ酒をすすめてから、我れ先にと酒瓶に囲んで飲みはじめた。
 兵士達が酒を飲み干したのを見た棗売り達は姿を現わし、楊志たちを見て指をさして笑いはじめた。この棗売り七人とは晁蓋、呉用・公孫勝・劉唐・阮三兄弟、酒売りに化けて芝居をしていたのは白勝。酒に入っている痺れ薬が効き始めた兵士達は次々と倒れはじめた。
 楊志は計られたと気付いたがすでに手後れ、痺れて立ち上がる事もできず生辰綱が盗まれるのを見ているしかない。晁蓋達は棗を棄て、十万貫の生辰綱と積みかえ去って行った。

 最初、酒に痺れ薬は入っていなかったが、酒瓶からこっそり盗みとったひと腕の中に薬を仕込み、酒売りが奪い返し瓶に戻した時に薬を混ぜたのだ。すべて呉用の策略であった。
 飲んだ酒の量が少なかったため、兵士達よりは回復が早かった楊志は、しばらくして手足の感覚を取り戻し立ち上がった。
 まだ、足下がふらつきながらも朴刀を握りしめ、賊を追いかたが、既に遠くへ立ち去ったあと。万全の体制で望んだはずの任務をしくじった楊志は考えた末、黄泥岡で身を投げようとした。


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