物語 第十四回

晁蓋と劉唐


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 雷横は不審人物を引き連れ県役所への帰える途中、東渓村の保正を勤める晁蓋の屋敷の前を通りかかった。晁蓋は名の通った人物で、民からも慕われ世間の好漢達との交わりを深める。義を重んじ財を軽んじ、役人からも一目置かれる人物であった。
 東渓村で捕えた曲者だったので、休息をとるついで晁蓋にひと声報告するのが良かろうと、雷横は晁家の門を叩いた。普段から付き合いのある二人、どんなごろつきでも頼ってきた者であれば、力になってやる保正と晁蓋の義気を知る役人の雷横。地位は違えど互いに正しき心をもっていた。
 捕えた曲者は屋敷の納屋へと放りこんだ。

 あわただしく晁家の使用人らが雷横とその部下達をもてなす。普段から棒槍を好んで武芸に熱をいれる晁蓋は、つい雷横の捕えた巨漢に興味を持ち、目を盗んでこっそりと納屋を覗きこんだ。
 晁蓋がその巨漢を見るに、流れ者姿でがっしりとした身体つき顔には赤痣とまばらな赤髭。自らの目で確かめただけの事はあり、ただ者ではなく何かいわくあり気な感じがし、晁蓋は男に話しかけた。
 男の名は劉唐、綽名は赤髪鬼と言う。ここに来た目当ては金儲けの話しを晁蓋に届ける事であった。劉唐の話しに興味を持った晁蓋は、自分の甥として逢いに来た事にしろ言い、助け出す手筈を整えた。

 食事を終える部下達。巡回の任を終える為に役所へと腰を上げる雷横、そして引きたてられる劉唐、役人を見送る晁蓋。そのとき捕らわれの身となっていた劉唐が、晁蓋に向かって、叔父さんと声をあげた。
 晁蓋はわざと怪しげな顔つきで赤痣の辺りを見て、ふと思い出した様に自分の甥だと認め、雷横に説明をすし、また悪さをしたな、と大げさに棒で殴りかかろうとした。
 驚いたのは雷横、慌てて晁蓋を止めた。もともと罪もなく捕らえたのだし、普段から付き合いのある晁蓋の親族と名乗るのうえは、このまま連れて行く事もできず、手下に縄を解かせた。

 晁蓋は雷横に詫びて金をにぎらせて引き取ってもらい、役人達が屋敷を出て県役所へと向かったのを確認して、劉唐を屋敷の奥へと招き入れた。
 改めて劉唐は晁蓋に挨拶し、持って来た儲け話しを話した。劉唐の儲け話しとは、北京の梁世傑から蔡京へ送られる生辰綱十万貫を横取りしてやろうとの考えだった。民百姓からしぼり捕った税を我が私欲の為に賄賂として使うやり方には誰もが不満をもつのは当然の事。晁蓋も当然この話しに乗り気を示したが、はっきりと答えを出す事は出来なかった。しばらく思案する事として、劉唐を客間に通し休ませる事にした。

 客間で休んでいた劉唐だが、罪もなく捕らえ一晩中縛られた事を思い出すとむしゃくしゃし、雷横に仕返ししてやろうと屋敷にあった朴刀を持ちだすと、屋敷を飛び出し雷横の後を追った。
 しばらくして雷横達に追い付いた劉唐は大声で叫びながら朴刀を振り襲いかかった。気付いた雷横は刀を抜き、劉唐にたちむかった。一晩中縛られた事を怒っている劉唐はさっき晁蓋が渡した金を返せといい、雷横はこれは晁蓋にもらったものだと言ってお前には関係ないと言い、違いに刀を引き気配はなく、数合渡り合ったが勝負はつかない。
 そこへ、一人の書生姿の男が出てきて、銅鎖を振り回して二人の間に割ってはいった。

 雷横が見ると、顔見知りの呉用であった。ここ東渓村にて童塾をひらき、諸葛亮の智を越えると言われる智多星と綽名される人物である。
 外が騒がしいと思いふと外に出ると、この二人がしのぎを削りあっていたのが見え、雷横が押されぎみであった。何か間違いがあってはと止めに入ったのだが、雷横は晁蓋の甥が襲ってきたのだと言うが、劉唐は呉用の止める言葉など聞く耳もたず、また勢いよく朴刀を振りまわし雷横に向かって行き、さらに数合わたりあった。
 晁蓋に甥がいる話しなど聞いたことないので、訳ありと悟った呉用だった。

   そのとき、遠くから蹄の音とともに晁蓋が慌ててやってきた。馬を飛び降りた晁蓋はすぐに劉唐から朴刀を取りあげると雷横に詫びて、劉唐に殴り掛かっていった。呉用は何かいわくあり気なのを悟り、仲にはいって雷横をなだめ晁蓋を止めた。
 雷横が去って行くと呉用は甥について訪ねてみた。いずれは呉用に相談するつもりだった晁蓋は劉唐を紹介し屋敷に招いた。
 呉用は童塾を休日として晁蓋の屋敷へと向かい、人気のない奥の部屋にて三人にて密談が行われていた。劉唐の持ちこんできた生辰綱強奪についてである。

 保正として不自由のない暮しをしている晁蓋であったが、心の奥の思いを呉用に打ち明けた。それに昨日晁蓋が見た、屋敷に北斗七星が落ちるという奇妙な夢の事を話した。
 まさしく吉兆であり、北の方から仲間が来る予言ではないかと呉用は言う。晁蓋の強い気持ちを感じ取った呉用は知恵を貸す事を約束し、義の為に立ち上がる事をすすめた。
 呉用の考えでは、まずは心を一つとする同志を集める事、それも腕の立ち火水をも恐れぬ人間。うまく北斗七星にあやかって七人の仲間がそろえば、と思案していると、呉用の頭にふと三人の好漢の顔が浮かんできた。


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