物語 第十二回

青面獣楊志


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 顔に痣のある旅人と林冲と腕はまったくの互角。二人は激しく四十合もわたりあったが、一向に勝負がつきそうにない。そのとき、手下をつれ下山してきた王倫が戦いを止めた。激しい戦いをしていると聞き、様子を見にきたのだった。
 青痣の旅人の名は楊志、五候楊令公の末裔、殿司制使をもつとめ、青面獣と綽名されていた。楊志は徽宗皇帝の命にて、太湖から花石綱の運搬を受け持ったのだ、途中で嵐に遭遇して運搬船は沈没し任務に失敗したので逃亡。このたびの恩赦にあやかり、金品をあつめ殿司制使に復職するための上京途中であった。

 楊志は相手が林冲である事を聞くと、噂通りの武芸だと納得し王倫のすすめるままに山寨へ招かれた。林冲も楊志の名は知っていたので、二人は意気投合、歓迎の宴が用意された。
 二人の武芸の腕をみて、王倫は考えた。林冲と楊志を仲間入りさせて互いに地位を牽制させる、そうすれば首領の座は安泰では、と楊志に仲間入りをすすめた。
 梁山泊入りを認められた林冲だが楊志の意思は固く、山賊になり家名を汚す訳にはいかないと断わる。高俅に陥れられた林冲も強く仲間入りを進めたが、やはり楊志は復職への道を願った。

 翌朝荷物を返されて開封へ向かった楊志は、早速金目の品々を手配して以前の殿司制使の職へと復帰できるよう全財産を賄賂に投じた。
 なんとか高俅の許しを得れば復職できるところまでこぎつけたが、思い通りには事は運ばなかった。高俅の措置は厳しく、花石綱運搬失敗の罪は例え恩赦がでたとしても、今まで隠れていた武下に再び元の職を与える気などなかった。
 願いは却下され殿帥府から追い出された楊志、路銀は賄賂に使い果たし、残っている物は楊家代々の宝刀ひと振りだけだった。

 どんなもの斬っても刃こぼれしない強さ、血油を奇麗に流し去り、息を吹きかける力だけで毛をも斬る鋭さをもつ宝刀。これを売って今後の生活の元手としようと考え、繁華街へと足を向けた。
 しばらく歩きたどり着いたのが天漢州橋、人通りも多く賑やかな場所。楊志の刀売り姿に目を止めた一人の男がいた。名は牛二、人は毛無し虎と呼び恐れて、相手にする者はいなかった。
 日頃、街の人々から相手にされていない牛二は、見なれぬ楊志の姿を見て近寄ってきて、刀の値を聞いてきた。

 楊志は宝刀の良さを説くが、刀の値うちなど判りそうには見えない男に刀を売る気はない。しかし牛二は銅銭を斬ってみろだの、毛を吹いてみろだの、人を斬ってみろと執拗に絡んでくる。
 人を斬ってみろと、斬れないなら刀を渡せと迫ってくる牛二に、冷静な楊志もついカッとなり、牛二を斬り殺してしまう。
 楊志たちを囲んでいた見物人たちは皆牛二が殺されたのを喜んだ。嫌われ者に味方する人などなく楊志に同情した。楊志は見物していた人々を証人として役所へ自首した。役人にとっても牛二は嫌われ者であったため楊志に害を加える者はいなかった。

 殺人を犯した楊志だが味方する者も多く、罪は軽減され身柄を一兵卒として北京府へ流される事となった。
 北京に着いた楊志、北京留守司の粱世傑へ引き渡された。運良く、蔡京の娘聟にあたる大物に気に入られた楊志は、身を引き取られ側使えとなった。  楊志を一兵卒にしておくには惜しく、なんとか役職に就けてやろうと梁世傑は考えた。軍力の強化を進めるうえで楊志には利用価値がる。だが留守司とはいえひと声で楊志を役職に就かせ事は難しかった。

 北京の兵馬都監には聞達と李成の二人がいる。どちらも泣く子も黙る強者で武勇を轟かしている。梁世傑配下にはすぐれた人物が多く、それだけ強い自我を持つ。まず楊志の武術を見せる必要があった。
 あくる日、北京軍の調練が大演習場で行われた。その中で梁世傑は全軍を前にし、各地で反乱や山賊がはびこる。宋朝は今、有能な人材を求めていると厳しく喝をいれた。
 場内では副牌軍である周謹の日頃の鍛練の成果を見終えると、楊志を呼び出し、二人に武術くらべをさせよと号令した。


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