物語 第十回

危機を脱す


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 林冲に声をかけたのは、以前開封で働いていた時に金を使い込んでしまい、林冲が助けた事のある李小二であった。李小二はまさか林冲が流罪の苦難に落ちいっている事をしり、恩人のためにと力になった。
 李小二は開封を出て滄州に来て夫婦で酒屋を営んでいる。林冲は時間があれば李小二の店に顔をだして酒を飲み、李小二の妻は林冲の服をつくろったりしてた。
 そんなある日、李小二の酒屋に二人の役人が訪れた。役人は李小二に牢城に行き、管営と差撥を呼んでこさせひそひそと密談をし始めた。

 李小二は林冲から開封での事件を聞かされていたので、二人の言葉使いから察するに開封の役人だと思い、聞き耳をたてていると高大尉と言う言葉が聞こえたので、妻にこっそりと立ち聞きさせていた。
 しばらくして役人達は密談を終え出ていくと、入れ代わりに林冲がやってきた。李小二は開封の役人の特徴や聞き取った会話内容を林冲に伝えると、怒った林冲は陸謙と富安だと察し、短刀を懐に入れ陸謙達を探した。
 だがどこにも陸謙の姿はなく、それから三日間探し歩いたが手がかりすらなかった。次第に気も緩み、落ち着きを取り戻した林冲に転務の知らせが届いた。

 林冲は流刑地から少し遠くにある馬糧廠にて馬草の管理を任せられた。李小二に相談すると、稼ぐ事のできる仕事で滅多に就く事ができない仕事だと聞くと、ここから少し外れるが、命令であるため早速、林冲は荷物をまとめ馬糧廠へと向かった、雪の降る寒い日だった。
 馬糧廠に到着すると前任の馬草番人に説明をうけ、仕事を引き継ぎを済ませた。寝泊まりする小屋はすき間風が入り込み、今にも崩れそう。寒さに我慢できず、前の番人から酒にありつく方法も教えてもらっていたので早速、槍先に赤瓢箪を下げ、雪の降る中酒屋を目指した。

 少し歩くと酒屋についた。肉と酒を注文して飲み、身体が暖まったところで瓢箪に酒をつめて残った肉を持ち、雪降りの寒さの中を馬糧廠へと戻っていった。
 すると、昨日から降り続いている雪の重みで寝泊りする小屋がすっかりつぶれていた。危ういとこで難を逃れた林冲は、仕方なく酒屋に行く途中に目に止まった古廟で一晩を過そうと、小屋から布団だけを引き出して古廟へ向かった。
 中へ入り石を置いて扉が開かないようにし、布団にくるまり瓢箪の酒と肉を口にしていると、外からモノの焼ける音がしてきた。壁の隙間から覗いてみると馬草置き場から火の手が上がっているのが見えた。

 林冲は急いで槍を手にし火を消しに行こうとしたとき、古廟の外で人の話し声が聞こえてきた、その中の一人はまぎれもなく陸謙の声であった。
 古廟に入ろうとしたが、扉が開かないので外で陸謙と富安と差撥が綿密な計画で林冲を殺す事ができたと喜んでいるところだった。怒った林冲は扉を開け三人の前に飛びだした。
 焼け死んだと思っていた林冲の姿を見た三人は驚いて逃げ出そうとしたが、差撥をひと突きし、富安も動けぬままにひと突きされ息絶えた。逃げだそうとした陸謙をとりおさえた林冲は懐の短刀で陸謙を殺し、恨みを晴らした。

 すでに火の手は広まり、火事を知った人々が駆け付けてきているところだった。役所に知らせに行くと叫びながら林冲はその場から逃亡した。
 雪の降る厳しい寒さの中、林冲はあてもなく東を目指して雪道を歩いた。馬草置き場から遠く離れ安心した林冲は、明かりをたよりに百姓が米倉の番をしている小屋を訪れた。そこでは数人が米の番のために火にあたっていた。林冲は濡れた着物を乾そうと、火にあたる。酒があるので売ってくれというと、番人たちは自分達の分しかないので売れないという。何度聞いても答えは同じであった、少しの酒も譲ってくれそうにない。怒った林冲は槍を振り回し火の粉を飛ばし散らすと番人達はみな逃げ出していった。

 一人になった林冲は酒を飲み、身体が暖まるとまた雪道を歩き出した。だが、疲れと寒さのせいですぐに酔いがまわり、足下がふらふらになった。ついには雪道に倒れこんで立ち上がれずもがいていた。その時、林冲に追い出された番人が二十人もの農民を呼び集め、林冲を捕らえようとやってきた。
 起き上がる事もできない林冲は、それぞれの獲物をもった農民達大勢に囲まれ、米泥棒としてし捕らえられてしまった。米の番人をしていた者は罵りつつ網で縛りあげ、とある屋敷へと運びこんだ。


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