物語 第一回

魔王の解放


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 今から九百年ほど前、中国は北宋仁宗皇帝の時代。ここ数年間にわたって、宋国の民は悪疫に悩まされ多くの死者がでていた。いろいろ手はつくすものの効果はなく、大きな危機を感じとった宋朝の官僚は星祭りを行い祈祷してはと、皇帝に報告する。
 皇帝は天下の悪疫と知ると、大祈祷を命じる為に竜虎山上清宮の張天師を招くように詔書をしたため、勅使として殿前太尉の洪信を遣わせる事とにした。
 洪信は仁宋皇帝の命を受けると準備をととのえて、ただちに開封東京をたち、張天師にあうため信州の竜虎山向かう。

 洪信は幾日もの旅をかさね、竜虎山へ到着した。だが張天師は麓院からさらに山上に住んでいて、会うためには身を浄め、ひとり険しい道を越えていかなければならない。
 言われるままに香を焚きなから険しい山道を一人進む洪信。途中、大虎や大蛇に遭遇し命を縮める思いだった。しばらくすると一人の童子が黄牛にのり笛を吹きながらやってきて、天師様はすでに宋国の危機を知り、鶴の背に乗り一足先に開封に向かった、と笑いながら言う。
 洪信はこの先も猛獣が出ると言われると、童子の言う事を信じて下山した。麓院まで戻り、途中大虎や大蛇、おかしな童子にあった事を話すと、その童子こそが張天師であった事を聞かされる。
 詔書は渡せなかったものの、張天師自ら祈祷に行くと言ったのなら間違いはないとして、麓院上清宮に詔書を納めたのであった。

 翌日、洪信は勅使としての威厳にかかわるとし少々気が荒い。神殿をひとまわり案内され、魔耶殿の厳重に封印している扉を目にした。そこには『伏魔之殿』とかかれ、代々天師が魔を封印し続けているというと、洪信はどうしても中が見たくなり、強引に門を開かせた。
   中はひっそりとした暗闇。松明を照らし中にへと進むと、部屋の中央に一枚の石碑があり、表に刻まれた文字は読めないが、その裏には『遭洪而開』と大きく書かれていた。
 洪信は自分の名が刻まれていたので、止めるのも聞かず、人を集めて石碑を押し倒しその下の石亀を掘りおこした。

 石亀の下はポッカリと空いた底知れずの穴、何事もなかったかに思えたが、しばらくして轟音とともに部屋の中はとてつもない妖気に満ちた。一閃の光が暗雲とともに天に向かって舞い上がったとたん、頭上で光りは弾け飛び四方へ散らばった。
 皆、恐れ部屋から逃げ去った。洪信は震えがとまらず、ただ天を見上げるのみ。穴から飛び出た一閃の光は無数の星、三十六の天罡星と七十二の地煞星合わせて百八の魔星となり散々と飛びさった。やはり神の予言だったのだろうか…洪信の手によって魔を封じ込めていた石亀を開き、人間界に魔星を宿す事となった。

 取りかえしのつかない事をしたと知った洪信は、みなに口止めし慌てて下山し、また幾日にもおよぶ長旅をかさねて開封に戻った。
 皇帝に報告を終えると労いをうけ、勅命をはたした。すでに張天師は都にきて星祭りの祈祷を終え帰っていた。幾日かすると自然に悪疫もおさまり、ひと安心した洪信だが、封を破って魔をこの世界に呼び戻した事など口にもしなかった。
 …その後、洪信は静に余生を送った、魔を呼び覚ましてしまった事を悔いての事。


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